[シリア]停電と星くず

前略、

シリア入国、首都ダマスカスへ。
宿を見つけて安い部屋を見せてもらうと窓のない牢獄のような部屋だったが、何日もいるわけではないからいいだろうと、その部屋に入って昼間から電灯をつけていた。
しばらくそのまま休んでいて昼過ぎになると突然電灯が消えてしまった。窓がないのでドアを閉めていると真っ暗である。ヒューズでもとんだのだろうとしばらく待っていたが、電灯はなかなかつかなかった。部屋を出て、宿のオヤジに尋ねた。
「停電だ」と、彼は答えた。「毎日2時から6時までだ」
「毎日?!」
この町では水不足の地域が時間断水をするように、毎日決まった時間に「断電」をしていた。そういえば、来る途中歩道にやたらと発電機が並んでいるのを見かけたし、部屋のベッドサイドのテーブルにも焼け焦げと溶けたろうが付いていた。窓から外を見ると高級ホテルやレストラン、一部の商店などが歩道に出した発電機で自家発電をしていてエンジンの騒音が町中に響いていた。


パルミラへ。
そこには紀元前後にシルクロードの隊商都市として栄え、その後ローマ帝国に滅ぼされた町の遺跡があり、ギリシャ・ローマの文化に影響を受けた神殿、劇場などが残っている。
そこでも停電があり、そこの場合は時間が決まっているわけではなく不定期のようで、ある日は暗くなるまで停電が続いた。
その日、宿の屋上に上り、寝袋をひいて寝転んでいると、空が次第に暗くなるにつれて星が見え 始めた。砂漠のまん中のオアシスの町であるそこには、まわりに空気を澱ませるものは何一つない。乾燥しきっているので雲さえない。この時には町で微かな星の光を見えにくくする最大の原因であるまわりの人工の光も若干の自家発電の光以外は全くなかった。
星は満天に広がり、日本の都会で見える何十倍もの数の星が見え、銀河系が天の川としてはっきりと白い帯に見えた。星くずとはよくいったもので、星が見え過ぎて漆黒の空が光の粒で汚れているようだった。

草々