前略、
日本国内で日本人の両親から生まれて日本語でこれを読んでいるほとんどの人は当然のように日本国籍(だけ)を持っています。しかし、国籍というのは実際にはどのようにして決定されるのでしょうか。
まずは生まれてきた赤ちゃんの国籍の決め方です。
これには大きく分けて「生地主義」と「血統主義」の二つの考え方があります。
「生地主義」はその国で産まれた赤ちゃんにはその国の国籍を与えるという考え方で、イギリス連邦や南北アメリカ大陸の国々がこれを採用しています。
対する「血統主義」は赤ちゃんが父親、または両親の国籍を受け継ぐという考え方で、両親の国籍を受け継ぐ方式が多数です(日本はこれを採用しています)が、イスラム系の国などがまだ父親のみの国籍を受け継ぐという方式を採っています(といっても日本もついこの間まではこの方式だったのですが)。
国籍の与えられ方に大きく分けてこの二つの方式があるということは、両親の国籍と生まれた国によっては赤ちゃんの国籍が複数になったり、全くなくなったりする可能性があるということを意味しています。
血統主義の国の国籍を持つ両親が生地主義の国で赤ちゃんを産むと両親の国と生まれた国の二重国籍を持つし、血統主義の国の国籍を持つ国際結婚の両親から産まれた赤ちゃんも父親と母親の国の二重国籍になります。
反対に、生地主義の国の国籍を持つ両親が血統主義の国で赤ちゃんを産むと無国籍になる可能性もあるということです(たいがいの文明国ならそのあたりのことには例外規定があると思いますが)。
これだけでなく、血統主義の国の国籍を持つ国際結婚の両親が生地主義の国で子供を産むと三重国籍を持つ赤ちゃんができあがります。
ただし、すべての多重国籍者がいつまでもその国籍を保持し続けられるというわけではなく、国によってはそれを認めないところもあり、日本はそれに当てはまります。
日本の法律では、日本国籍を含む多重国籍者は22才まではそれらの国籍を保持でき、それまでにどれか一つの国籍を選択することになっています。20才以降に多重国籍になった者はそれ以後の2年以内に選択します。
20才以降に多重国籍になる場合というのはどんな場合かというと、だいたいの場合、国際結婚か帰化ということになります。
国際結婚の場合、相手国の法律によってはもれなく自動的に無理矢理にでも国籍が付いてくるという場合もあり、帰化の場合には元の国籍を離脱しなければ多重国籍になりますし、これまた法律によってもとの国籍から離脱できないという場合もあります。
日本では結婚すると親の戸籍から出て自分たち夫婦の新しい戸籍が作られるわけですが、日本国籍を持つ人の国際結婚の場合には全く同じようにはことは運びません。
国際結婚すると結婚した日本国籍者のための新しい戸籍が作られるのは変わりませんが、日本の戸籍には日本国籍をもつものしかは入れないので、ここに外国籍の配偶者は日本に帰化しない限りはいることができません。その戸籍の配偶者の欄は空で別の場所に外国籍の者と結婚した旨が記されているだけということです。
そして、特に届けることがなければ姓も変わることはありません。配偶者の姓を(日本で法的に)名乗りたい場合は結婚してから六ヶ月以内に申請すれば配偶者の姓に変更できます。配偶者が中国か韓国籍の場合は同じ漢字の姓(但し、日本の漢字と違う場合は日本の漢字に改める)に、それ以外の場合はカタカナの姓になります。
この時点ではスミスさんと結婚してこの姓を名乗ると届けた人がパスポートを取ると、その中の名前のローマ字表記は本名であるカタカナのスミスをそのまま直した「SUMISU」になってしまいます。これを「SMITH」と表記するためにはさらに届けが必要です。
その後に赤ちゃんが産まれたとします。国籍についてはこれまでに書いたとおりですが、赤ちゃんの姓についてはまた別のお話となります。
配偶者が帰化している場合は法的には日本人同士ですから我々と変わることはありません。届けを出して夫婦同姓になっている家族の場合は当然、赤ちゃんもその姓で日本国籍者の戸籍に子供として入ります。夫婦別姓の場合はなにもしなければ日本国籍者の姓で同じ戸籍に入り、届けを出せば外国籍の配偶者の姓を付けられますが、戸籍は日本国籍者の親とは姓が違うということでその子供だけのものが新たに作られます。
但し、これらの話は日本の法律に置いてということであり、多重国籍を保持している限りは他の国の法律に基づいた姓名が別にあるということになります。
帰化については、日本国籍者の配偶者であるとか、日本で生まれたとか、日本にかなり長期間住んでるとか、日系人だとか、相撲の親方になるとか、オリンピックやワールドカップで活躍しそう(しかも、本国のほうはレベルが高いので補欠)だとかの正当な、あるいは怪しい理由がなければ非常に難しいということです。
赤ちゃんが二十二才になるときがやってくると、国籍選択をしなければなりません。
日本の国籍なんかいらないという場合には話は簡単です。国籍の選択をしなかったり、国籍離脱届けを出したり、他の多重国籍を認めない国の国籍を先に選択し(その国がその旨日本政府に伝えてき)た場合には日本国籍はなくなります。
また、他の国の国籍なんかいらないという場合も簡単です。日本の国籍を選択し、他の国のは離脱すればいいのです。
この他にもまだ第三の選択の方法があるようです。
とりあえず、日本の国籍を選択します。すると、日本政府はその「元」多重国籍者が日本国籍を選択したことを他の国籍の国に伝えます。その相手国が多重国籍を認めない法律を持っている場合、その国籍は自動的に剥奪される可能性があります(日本の場合はそうらしい)が、相手国が多重国籍を認めているまともな国の場合は、自国民である本人からの届けもないのに他の国の政府のお知らせだけで国籍を剥奪するようなことはしないのです。
つまり、とりあえず、日本政府には日本国籍を選択するといって押さえておけば、(その国の法律にもよるが)他の国の国籍はほっておけば、事実上、多重国籍のままでいられる可能性があるということです。
オリンピックに出るために外国籍の日系人が日本に帰化したなんていうことがありましたが、その人たちは明らかにもとの国籍を保持していて二重国籍になっているはずです。
外国に行くときに複数のパスポートの中から一番有利なものを選んで使うなんてスパイか暗殺者みたいで怪しくてかっこいいじゃないですか。
資格、免許マニアという使いもしないのにたくさんの資格、免許をもつ人たちがいるのですから、広い世の中にはたくさんの国籍を持つ国籍マニアがいるかもしれませんね(世界最多国籍のひとは誰でいくつの国籍なのでしょう。ギネスに載ってるのかな)。
草々