[リトアニア]バルト三国行って帰って その2

ワルシャワをバスで出発する。
夕方の6時頃、国境に到着。出国を待っている長いトラックや乗用車の列の横を通り抜けて止まると、ポーランドの出国審査のために制服をきっちりと着た中年の無表情な係官が入ってきた。ぼく以外の乗客はすべてポーランド人とバルト三国の人のようだ。彼らに対する旅券のチェックは簡単なものだった。
しかし、ぼくの番になって無表情の係官は、人が変わったようにぼくの旅券を調べ始めた。無言のまま、すべてのページをたっぷり5分間は前へ後ろへと繰りながら、他の国の査証のページも穴の開くほど調べていた。その真剣な表情は単に好奇心から見ているとはとても思えず、どこからか何でもいいからミスを捻り出して金でもせびろうとしているように見えた。
結局、彼はぼくの旅券から何も見つけだせなかったらしく出国スタンプが押され、彼は無言のまま旅券を突き返してきた。

しばらくして、今度は帽子を斜めにかぶり制服のボタンも留めずに着くずした若い男が入ってきた。リトアニアの係官だった。彼は乗客と陽気に話しながらチェックを進め、ぼくの旅券を見ると、「ジャパーン!」と大袈裟に叫び、ぼくになにごとか話しかけてきたが、それはエストニア語だったようだ。彼がぼくに何か尋ねると乗客はそれを聞いて笑っていた。
彼はすべての乗客の審査を終えると出ていった。彼はぼくの旅券に入国スタンプを押すどころか(スタンプを持ってなかった)、査証も調べず、表紙を見ただけで旅券を開くこともなく出ていった。
後ろの席の英語を話す女の子に、彼がぼくにした質問のことを尋ねた。
「彼はあなたに『拳銃は持ってないね?』って尋ねたのよ」
リトアニアはとてもいいところのようだ。

夜の10時にリトアニアの首都ビリニュスの元ソ連の国営高級ホテルだったホテル・リトバ前に到着した。
ワルシャワからここまでは列車でも来れる。夜行の直通列車もあるのだが、これを使うにはとても大きな問題があった。ワルシャワからビリニュスへの直通列車は、ポーランドから直接リトアニアに入らずにバルト三国と同じく元ソ連の共和国で独立したベラルーシの領土の北西部の隅をほんの少しかすめていくために、ソ連時代は何の問題もなかったのだが、今ではベラルーシの通過査証が別に必要なのである。
ぼくがワルシャワで情報を聞いた中の一人は、これを知らずにこの列車に乗ってしまい、列車がポーランドを出てベラルーシに入り入国審査官が来た時、彼はそこがベラルーシであることを知らないので、最初、状況が全く把握できなかったらしい。やがて、そこがベラルーシであることが分かったが、後の祭り。彼はほんの少しその国を通るためだけに査証代を数十ドル請求された。彼はなんとか払わずに済むように交渉したらしいが、その列車がベラルーシを通ることを知らずにくる旅人は多いのだろう、向こうは慣れたものだったらしい。
「別に我々は君をポーランドに送り返してもいいんだよ」
そういわれて、彼は査証代を払うしかなかったそうだ。
リトアニアに着いてから知ったのだが、この時にはソ連時代には廃止されていたポーランドとリトアニアを直接結ぶ路線が再開されていたらしい。

宿を探しに行く。ワルシャワで聞いた情報に従っていくと、そこは普通のアパートメントのようだったが、受付のおばさんに話すと泊まれるということだった。部屋がたくさん空いているので、多分、内緒で旅人に部屋を貸しているのだろう。通された部屋は狭いワンルームの部屋でアパートメントなのでキッチンとバスルームが付いていたが、お湯は出なかった。宿代はドル払いで4ドル(帰りにもう一度泊まった時は2ドル)だった。
一休みした後、街へ出て10ドル両替した。ロシアの貨幣であるルーブルもまだ多少流通していて使われていた。

ビリニュスの街には高層建築は全くなく、高い建物はすべて教会という古い落ち着いた町並みが続いていた。ビリニュスはこれまで訪れた国の中で最もなにもないいなかな首都だった(この後に訪れた国も含めても第1位は変わらない。つまりラオスのビエンチャンよりもいなかということ)。
この後のバルトの国もそうだったが、街にはたくさんの花屋があり、これらの国の美しいアクセントになっていて、心を落ち着かせてくれる。
近くのセルフサーヴィスのカフェで食事をした。コーヒー、ゆで卵、茹でたソーセージを食べて、150タローナス(40円弱)。この調子では宿代はドルで払っているし、数日ではとても10ドル分を使い切れそうにないので、まずかなり伸びていた髪を切りにいったら300タローナス(80円弱)、そこでこの夜はワルシャワで教えてもらった高級レストランに行って食事をした。ピンク色のグランド・ピアノがあって(演奏はしていなかった)正装したウェイターのいるところである。
ボルシチ、キエフ風カツレツ(レーズンとバターの入ったチキンのカツレツ)、アイスクリーム、紅茶で、たったの760タローナス(200円弱)。安いのはとてもいいのだが、一人で食事するのにジーパンと汚れたジャケットでいちいち高級レストランに入るのは気詰まりだった。しかし、ビリニュスにはまともなレストランのほかにはセルフサーヴィスのカフェぐらいしかなく、気軽に入れるレストランがあまりないのだ。まだあまり外食の習慣がないのだろう。


つづく