前略、
安宿の部屋のドアに自分の南京錠で二重に鍵をかけると安全性は増すのだろうか?
以下の考察は部屋に鍵がまったくないとか、南京錠だけという安宿は関係がない。また、「ホテルのドアに南京錠でどうやって鍵をかけるの? 鍵はいつもカードだよ。っていうか、南京錠ってなに?」という人も以下の文章は読むだけ無駄だ。
安宿のなかには、ドアにちゃんと鍵は付いているが、ドアの外側に宿泊者が自分の南京錠などで二重に鍵をかけられるように金具がついているところがある。ぼくも気が向いたときはマイ南京錠をとりだして二重に鍵をかけることがある。かけないことも多いのだが、これをすることによって本当に安全性が増すのかということをちょっと考えてみようと思う。
泥棒の気持ちになって考えてみよう。何事も相手の気持ちになって考えるのはよいことである。
あなたは泥棒である。今、ひとけのない安宿の廊下に立っている。まず南京錠の付いていないドアの前に立ってみる。ノックをしてみよう。返事があった場合はすぐに立ち去らなければならない。返事がなければ、ドアを開けてみよう。
ドアに鍵がかかっていた場合、あなたは鍵をやぶらなければならないが、あなたは泥棒だからそれくらいのことはできるだろう。
ドアを開けてみて、考えられる状況は三つ。人がいなくて荷物がある。荷物があるけど人もいる。人も荷物もない。
人がいなくて荷物があるというのが、泥棒であるあなたにとって理想的な状況だ。ただし、ドアに鍵がかかっていなくてこの状況だった場合は人がすぐに戻ってくる可能性が大きいので仕事は素早く行わなければならない。
荷物があるけど、人もいるという場合、中にいる人はノックを無視したか、聞こえなかった(iPodを聴いていた)か、寝ていたかということだろう。相手に気がつかれる前にドアを閉めることができればよいが、そうでなかったときはなにか言い訳を考えなければならない。とりわけかかっていた鍵を無理矢理開けて入った場合は、相手を納得させる理由を考えるのはなかなか難しい。相手が寝ていた場合は仕事にとりかかるかどうかはあなたの神経の太さ次第だ。今回、あなたは泥棒ということなのでそれ以上の凶悪な犯罪に進むことは考えないでおこう。
人も荷物もない場合、あなたは空き部屋に入ったのだ。ルーズや宿なら空き部屋に鍵なんかかけない。鍵をわざわざやぶって空き部屋に入った場合、あなたは意味もなくそこで時間をつぶし、誰かに見つかる危険が増したことを認識しなくてはならない。
今度は南京錠のかかったドアの前に立ってみよう。今度はノックをする必要はない。南京錠で外から鍵をかけてある部屋にノックをして中から返事があった場合、それは誰かが監禁されているということだ。泣き叫ぶ女性や子供の声が聞こえてきた場合、あなたは仕事をするどころではなくなってしまうだろう。
ノックはせずにいきなり仕事にかかればよい。あなたは泥棒だから、二つの鍵くらい開けることはできるはずだ。ドアを開ければ、そこには誰かが監禁されていない限り人はいないし、空き部屋であるはずもない。南京錠をかけて外に出かけた宿泊者の荷物があるはずだ。さあ、仕事にかかろう。
どうだろう。あなたなら南京錠のかかった部屋とかかっていない部屋のどちらに泥棒に入るだろうか。翻って、あなたは安宿の自分の部屋に南京錠で二重に鍵をかけたいと思うだろうか。
草々
追伸、安易な結論に飛びつかれては困るので、別の考え方もあることを付け加えておいたほうがいいだろう。「リアル・ヴァージョン」だ。
あなたは泥棒である。ちまちまくだらない仕事なんてしてられないと思っている。楽して金もうけができればサイコーだ。宿には南京錠で二重に鍵のかかったドアとかかっていないドアがある。あなたはどっちに入る…。